第12号の紙版はすでに一部の書店では発売されておりますが、kindle版サイトも発売開始されました。(

今号は、随筆遺産発掘で取り上げた中谷宇吉郎先生の命日を、発売日とさせていただきました。

以下に、各記事の簡単な紹介を案内させていただきます。

田口善弘先生の巻頭言は、昭和9年2月22日の生物学談話会での寺田寅彦の言葉を借りて内容紹介するのが的確かと思います。「生物と無生物との間にlineを引きたくない。生命現象も、物理現象として説明出来るように物理を進めて行かなければ気がすまない。生物と無生物とを別々に祭り上げておくことは面白くない。一緒に同じ神棚に祭ることが出来る可能性はありそうに思われる。そうしないと何だか私には工合がわるい。」

物理学から哲学に転向した哲学者 大森荘蔵。大森先生の下で学んでこられた野矢茂樹先生が、往時の大森先生を振り返りながら、大森荘蔵という哲学者が何を哲学に求めていったのか、大森哲学の核心に触れながら、その心情を綴っていただきました。

大学時代から長くフルートを吹いてこられた兵頭俊夫先生には、フルートの物理的仕組みを図入りで解説いただきながら、音律や音程を巡る練習の苦労話を綴っていただきました。サックスやオーボエなどの楽器と比べながらの閉管・開管の話も興味深いです。

岡本拓司先生の「太平洋戦争前後の湯川秀樹」は、湯川先生が戦時中、科学者としてどのような経験を重ねていたのか、その発言内容を見直すことで、「科学に携わることが人間に何を言わしめるのかを理解するための貴重な材料」となることを提起した重要な論考です。

井元信之先生の連載第12回は、前回とり上げたシーボルトが日本に最初に持ち込んだスクエアピアノに繋がる話。今回の焦点は、日本で西洋式音楽教育のために導入されたピアノとはどんなものだったか、それにまつわるとても面白いピアノ物語です。

伊藤憲二先生の連載「菊池泰二と真空管」第2回は、日本に最初に真空管を導入した鳥潟右一を軸に、当時の真空管技術と理論がどのように発展していったかを紹介します。鳥潟が部長を務めた電気試験所に菊池泰二がなぜ入所したのか、その背景を探っていきます。

「随筆遺産発掘」第12回は、創刊号でもとり上げた中谷宇吉郎を、再度初心に返って採録。宇吉郎25歳のときの作品「雑記」の中の「江戸時代のめんこ」を初出原文から掲載。海岸で拾っためんこから繰り広げる話の背景には、寅彦や弟 治宇二郎が垣間見えます。細川光洋先生の解説の結びも、それらと相まって得心するオチです。

連載「本読み えんたんぐる」第8回は、街の起伏をめぐる微分感覚と文系感覚の情緒を絡めた書籍2冊を紹介。一つは鉄道ファンにはたまらない鉄道起伏紀行本。もう一つは耽美派に嬉しい永井荷風随筆集。タモリも愛する「東京の彫りの深さ」に思わず唸ります。

コラム連載「窮理逍遙」第5回は、往年のペンローズとの交流を偲ぶ回想記。ワルシャワ、ブリュージュ、オックスフォード、エルサレム、そして京都と、世界中を廻りながらペンローズと触れあって来られた佐藤文隆先生が、各所で受けた啓発や感慨が伝わる話です。

寅彦俳句連載の「窮理の種」第11回は、寅彦入院中の句を紹介。奇しくも厄年で胃潰瘍で吐血し、一度死んだような心持ちになった寅彦が、それを機にどのように変わっていったのか…。寒がり屋の寅彦が待ち遠しい、暖かい季節になってきました。