本日は第13号の発売日ですので、以下に各記事の簡単な紹介をしておきます。

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「物理ジャーナルの来し方行く末」早川尚男

早川先生の巻頭言は、表題のとおり、物理をはじめとする学術誌の未来の重い課題を浮き彫りにしています。アメリカ物理学会が刊行する学術誌や湯川秀樹先生が尽力して創刊されたジャーナルを中心に、論文投稿数や掲載数、購読数、引用数などを具体的に挙げながら、来し方を振り返ります。その中で、次代の形として浮上しているOA誌にも触れ、学術誌が孕む大きな問題を提起されています。日本人で唯一のフィジカル・レビューE誌の編集会議メンバーでもある早川先生の貴重な経験に基づく話です。

「在りし日の断想(前編)」山崎和夫

山崎先生が、ハイゼンベルク先生と湯川秀樹先生の二人の恩師を中心に思い出を綴った前後二篇の追想エッセイです。前編では、木庭二郎先生、早川幸男先生、朝永振一郎先生、高林武彦先生、南部陽一郎先生といった日本を代表する物理学者たちが登場します。京大基礎物理学研究所が設立されたばかりの頃の話やドイツで湯川先生ご夫妻とドライブ旅行した話など、貴重な写真も多く収めています。

「我が名は究理」本川達雄

本川先生には、ある意味で小誌への応援メッセージともとれる原稿を頂きました。その内容は、表題のとおり、読んで頂ければ納得いただける微笑ましい話です。「歌う生物学者」の本川先生らしいショートエッセイ。本稿から、本川先生の科学観を窺い知ることもできるでしょう。

「青桐」岡村浩

岡村先生のエッセイは、冒頭から青桐が桐ではない話から始まり、湯川先生が荘子の「万物は一馬なり」から引いた「白馬非馬」の話へ展開。これが、物理の何の話になるのか、岡村先生がどのように考えを拡げたのか、については本文を是非。その他、中村誠太郎先生や朝永振一郎先生、山口嘉夫先生たちとの回想まで話は多岐に膨らみます。

「三村剛昂:「波動幾何学」に至るまでの足跡(前編)」小長谷大介

小長谷先生には、広大理論物理学研究所初代所長を務め、科学者京都会議にも尽力された三村剛昂先生の前史(主に戦前中心)について前後二篇でご執筆いただきました。前編では、三村の生い立ちや広島高等師範学校時代について取り上げます。当時の三村が何に興味をもって研究を進めていたか、その斬新な着眼点にも驚かされます。

「音楽談話室(十三)アインシュタインとハイゼンベルク」井元信之

冒頭では、アインシュタインとハイゼンベルクの二人が演奏した楽器を軸に比較論考を試みます。アインシュタインはヴァイオリン、ハイゼンベルクはピアノ。言い換えるとアナログとデジタルの比較であり、波動性と粒子性の対比にもなる、という話から本題はアインシュタインのヴァイオリン演奏について入っていきます。来日時の演奏やプランク、エーレンフェストらとの共演など、知られざる興味深い話が満載です。リーゼ・マイトナーのアインシュタイン評は圧巻。

「菊池泰二と真空管(三)ダイナトロンとプライオトロン」伊藤憲二

最終回の今回は、冒頭から、鳥潟右一研究室で真空管の研究制作に励む菊池泰二の描写から始まります。真空管の内製は当時困難でしたが、そんな中で菊池が進めた研究は世界でも最前線の一つでした。菊池が提出した二編の論文を図も入れて詳細に紹介します。物理学と電気工学にまたがる研究として、その後の原子物理学の発展にも影響を与えた真空管研究は、テクノロジーにも科学の芽があることを知る一つの良い例と言えます。

「随筆遺産発掘(十三)海鳴り」中谷治宇二郎(解説:細川光洋)

前回の中谷宇吉郎に続いて、今回は弟で考古学者の中谷治宇二郎の心の故郷を綴った名品「海鳴り」を。パリに留学する直前に書かれたもので、郷里の片山津に吹く“海鳴り”の響きが、北国の暮らしや民俗的な風習、伝承と共に描かれた文学性豊かな作品です。人生の分岐点にたつ治宇二郎の目に、パリと柴山潟の風景が重なります。親友岡潔や柳田国男の存在も背後に見られる、本作品に響き渡る「海鳴り」をぜひ聴いてください。

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(写真(左)は中谷宇吉郎雪の科学館から撮影した柴山潟、(右)はパリ北駅構内(撮影者:やまなみ書房飯澤氏)。パリ北駅は、兄宇吉郎と再会し、別れた場所。)

「本読み えんたんぐる(九)椎名麟三の近代、GAFAの脱近代」尾関章

今回は、近代と脱近代をめぐる労働の話に絡む3つの書籍を取り上げます。一つは列車、もう一つは工業都市、そして最後は昨今話題のGAFA。電車も完全自動運転になりつつある現代。肉体を通して近代文明の素朴さを感じていた時代から、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの四大IT企業やIOT技術まで俯瞰し、そこから近代と脱近代の何が見えてくるのか…。深くて悩ましい問題が立ちはだかります。

「窮理逍遙(六)シュラムの“億ション”」佐藤文隆

今回は、素粒子宇宙論の分野に名を馳せたデービッド・シュラムとの交流をめぐる話。シカゴ大に着任したシュラムが市中心部に買ったという高級マンションを訪ねた佐藤先生。驚くことばかりで、更にシュラムのその後の劇的な人生にも驚かされます。

「窮理の種(十二)真夏のモダンガール」川島禎子

今回は、寅彦が昭和4年に詠んだ「盛夏銀座街頭雑詠」四句のうちの一句を紹介します。当時流行ったモダンガールの装いから切り取った真夏のワンシーン。銀ブラが好きだったモダンな感性の寅彦と娘たちとの関係がうかがえる一句です。