本日は『窮理』第17号の発売日です。

クリスマスの今日はニュートンの誕生日でもあり、東大恒例のニュートン祭の日でもありますが、今回とりあげた田中館愛橘先生はこのニュートン祭創始者の一人です。

そんなことで、今号もどうぞよろしくお願い致します。

以下、各記事の概要を案内いたします。


甘利俊一「人工知能と社会」

甘利先生の巻頭言では、1950年代の人工知能の登場から現代の深層学習に至るまでの発展を概観しながら、人間の意識や文明との関わりについてメッセージ性のある提言をされています。とくに、原理の解明と法則の探究に拘ることへの問題提起はたいへん示唆的です。「きれいで単純な原理として理解できるとは限らないかもしれない。」

塩村 耕「リモート授業で安政コロリ体験記を読む」

塩村先生には、コロナ禍でオンライン授業となった「安政コロリ体験記」講読の紹介をしていただきました。江戸に住む当時40代の寺子屋師匠の筆によるもので、噂話の悪病が徐々に身近に迫ってくる体験記が候文体で綴られています。まるで時代小説を読んでいるような錯覚に引き込まれる緊迫感。まさに他人事には思えません。

黒川信重「数学と時間」

黒川先生には、50年に渡って考えてこられたリーマン予想について、数学難問とその解決までの時間間隔(感覚?)を紹介いただきました。「本来、数学は解けない時間を楽しむもの」という先生の言葉には重みがあります。冒頭の素数遊びも面白いです。数字に意味を見出す作業も難問探究もどちらも果てしないものです。

小松美沙子「露伴、寅彦、宇吉郎と父小林勇(前編)」

多くのエッセイを残し、雅号冬青としても知られる編集者 小林勇氏のご長女 小松美沙子さんには、前後二編にわたってご執筆をいただきます。本エッセイは井元先生の「音楽談話室」とも関係しますがそれは次号の後編で…。
前編では、幸田露伴、寺田寅彦、小林勇、三人のエピソードを小松さんの視点から紹介いただきました。小松さん所蔵の貴重な寅彦書簡も初公開。また、寅彦先生の筆名 尾野倶郎についても解説。そのヒントとして、寅彦先生の知られざる別名で、昭和2年10月18日付小宮豊隆宛書簡に使ったアイヌ語の差出人名「播磨浦喜」を挙げておきます。読みと意味は、Harimau=tiger、laki=man。では、尾野倶郎は何語でしょうか?

杉山滋郎「堀内壽郎の欧州留学生活―量子力学・重水素・ナチス台頭(三)」

杉山先生の連載第三回は、ベルリンのポランニーの下で研究をすることになった堀内壽郎に、時代の暗雲がひたひたと覆います。1933年、ヒトラーの第三帝国が始まる中、ドイツ国内のユダヤ人科学者たちが不穏を感じ、亡命の可能性を探り始めます。ベルリンで研究を始めた堀内にもいよいよ……。

井元信之「音楽談話室(十七)ケーベル先生(一)」

井元先生の音楽談話室は、今回と次回であの「ケーベル先生」を取り上げます。今回はケーベル先生の人物像とその音楽について。明治・大正期の錚々たる哲学者や芸術家たちが影響を受けたその魅力に迫ります。もちろん、漱石先生も寅彦先生も登場します。

伊藤憲二「仁科芳雄と日独青年物理学者たち(三)K・ビルスと戦前日本の外国人研究者(後編)」

伊藤先生の連載第三回は、前号に続いてカルル・ビルスの後編です。今回はまるでドラマのような内容。ビルスという一人の若いドイツ人物理学者を通して、当時の日本や世界の状況が垣間見えます。『きけ わだつみのこえ』や『ビルマの竪琴』も関係する意外な展開も目を引きます。

随筆遺産発掘(十七)ー田中館愛橘「初めてヨーロツパえ」(解説:細川光洋)

今回の随筆遺産発掘は、日本のケルビン卿的存在の田中館愛橘です。生涯で22回も海外渡航していた、当時では珍しいコスモポリタンの愛橘先生が初めて渡欧したローマ字随筆(邦字起こし)を紹介します。平民宰相の原敬との関係、メートル法の導入、ローマ字普及にかけた情熱などを、短歌も交えて細川先生に解説していただきます。

尾関 章「本読み えんたんぐる(十三)月から見た地球、南極から見た国」

今回は、個人から世界に至るまでの科学の在り方について問う2冊を紹介。一つは、今年亡くなられた元朝日新聞社で論説委員も務められた柴田鉄治氏の著書から。もう一つは、小誌でご執筆いただいた小沼通二先生の新著から湯川先生を絡めます。取り上げ方ひとつでその見え方も変わる、科学の寄与について考えさせられます。

佐藤文隆「窮理逍遙(十)そだちのいいバーナード」

佐藤先生の連載第十回は、ホーキングが最初に博士指導したバーナード・カーについて。奥さんが日本人というバーナードの意外な一面も…。英国SPRと聞けばピンと来る方も多いはずです。日本びいきの理由も何となく繋がるように感じるバーナードです。

川島禎子「窮理の種(十六)御降三句」

今回は明治40年の寅彦先生の新年句を3つ。数少ない新年句の中の「御降」(おさがり)を季題としたものを紹介いただきました。御降は正月三が日に降る雨や雪のことですが、さて2021年の新年の天気はいかに…。連句に興味を持っていた寅彦先生の視野の広さが感じられます。