本日は『窮理』第19号の発売日です。

今回も緊急事態宣言中での発売となりましたが、ご無理のない形でどうぞよろしくお願い致します。

以下、各記事の概要を案内いたします。

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「雨が降る理由」 木村龍治

巻頭の木村龍治先生には、毎年もたらされる集中豪雨の背景である“雨の降り方と気候の関係”について書いて頂きました。なぜ毎年の降水量は一定値になるのか。海の関係と合わせて地球気候を熱力学の観点からも説明して頂いています。雨は気候のしるし。雨を不思議に感じるところから始まる窮理の精神を味わって頂けたら幸いです。

「シュレーディンガーの墓碑銘:実在と認識」 細谷暁夫

今年はシュレーディンガー没後60年の節目。細谷暁夫先生には、シュレーディンガーの墓碑銘にある詩を通して、その思想の核心をつく実在論と認識論について語って頂きました。昨年上梓した『寺田寅彦『物理学序説』を読む』の続編的な話でもあります。シュレーディンガーと寺田寅彦が互いに研究の軌跡を交差させていたことも窺えます。

「私は世界であり私である。そして…」 早川博信

細谷先生のシュレーディンガーの思想の核心を、インド哲学の観点からご自身の体験も交えて語って頂いたのが早川博信先生のエッセイです。翻訳されたシュレーディンガーの『わが世界観』を背景に、その思想と交わる仏教経典『維摩経』を紹介して頂きました。「私」と「世界」を分かちがたく関係づける「不二」とは一体何か。細谷先生のエッセイと合わせて読んでみて下さい。

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「松根東洋城と「渋柿」俳句」 渡邊孤鷲

現在、俳誌『渋柿』の代表をつとめる渡邊孤鷲氏には、創刊者の松根東洋城の人物像と俳句理念について紹介して頂きました。勿論、寅彦先生も登場します。二人に共通の師である夏目漱石の俳句精神がいかに伝承されていったかも分かります。随筆遺産発掘の解説とも合わせて読んで頂けるとその系譜が更にわかります。

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「戦後における広大理論物理学研究所の再建」 小長谷大介

小長谷大介先生には、小誌第13号、14号で紹介して頂いた三村剛昂先生が初代所長をつとめた広大理論物理学研究所の戦後について紹介して頂きました。原爆被災した理論研が戦後どのように再建されたのか、三村の出身地である竹原町誘致に至る原動力に迫ります。

「音楽談話室(十九)―ケーベル先生(三)」 井元信之

井元信之先生の「音楽談話室」は前号に続くケーベル先生の第三話。最終となる今回は、前回紹介したケーベル先生の「九つの歌」各曲を、楽譜の部分紹介も交えて解説して頂きました。ケーベル先生の横浜での晩年と病没までと重なる、荘重な雰囲気を讃えたその音楽性を感じて頂けたら幸いです。

「仁科芳雄と日独青年物理学者たち(四)―渡邊慧と寺田物理学(後編)」 伊藤憲二

伊藤憲二先生の仁科連載は、前号の「渡邊慧と寺田物理学」の後編になります。ドイツでの朝永先生との交遊と渡邊先生の滞在費をめぐる顛末、第二次世界大戦を経た渡邊先生のその後、寺田物理学への仁科評価と真の理解などなど、群像劇ともいえる本連載の圧巻を味読ください。

「随筆遺産発掘(十九)―海の不思議と海流(抄)」 宇田道隆(解説:細川光洋)

随筆遺産発掘は寅彦門下十哲の一人、宇田道隆。寺田寅彦の海洋物理を継承したその研究の柱とも繋がる随筆を紹介します。そこには渦巻や潮目、船幽霊など寅彦随筆の「怪異考」などとも通じる世界が…。科学観のみならず俳句観、自然観まで、寅彦門下で最も強くその精神を受け継いだ人物像に迫ります。

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「本読み えんたんぐる(十五)―少年が大海の孤島に登場する物語は理系っぽい」 尾関 章

本読みえんたんぐるも今回は海がテーマ。ウィリアム・ゴールディングと池澤夏樹のそれぞれの代表作を絡めての少年たちの物語。二人の作家のもう一つの共通点も捉えながら、物語が描く世界から今のコロナ禍の社会も読み解いていきます。

「窮理逍遙(十二)―人情に濃いビレンケン」 佐藤文隆

「窮理逍遙」第12回は“宇宙の無からの創生”で知られるアレックス・ビレンケンと佐藤先生との交流について。無名の若手時代から続く、米国と日本における厚くて“人情に濃い”交流談です。

「窮理の種(十八)―夏椎子(二)」 川島禎子

「窮理の種」第18回は前号に続き、「夏椎子」の謎解き第二話です。今回は、寅彦先生大学時代の交友を通して、若き夫婦の深い情愛が垣間見られます。であるが故に、夏椎子はやはり…