新刊の『科学絵本 茶わんの湯』が発売開始されましたので、以下に少し関連情報を案内します!
寺田寅彦の「茶碗の湯」が掲載された『赤い鳥』8巻5号は、大正11年5月1日に発行されました。それに合わせ、本書も同じ5月1日の発行日で、こどもの日の季節に世に送り出すことにしました。
本書の絵本版は、見開き単位で科学解説の小見出しと、内容がほぼ連動する形で構成されています。 逆に、科学解説の小見出しだけを追うと、「茶碗の湯」がどのような科学的内容で展開されているのか、絵本版と共に整理できるかと思います。
絵本版の挿絵には、寅彦先生が生前に描かれた風景画を思わせる景色が、随所に散りばめられています。 浅間山だったり、松原湖だったり、須崎の海岸だったり、あるいは自宅の庭や縁側、2階からの景色なども垣間みられます。 寅彦先生が見ていた風景も、絵本を通して感じて頂けたら幸いです。
「寅彦も三重吉も共に漱石の血が通ってゐる。」と画家の津田青楓が書いているとおり、『赤い鳥』から生まれた「茶碗の湯」を読み解いていくと、夏目漱石に辿り着き、正岡子規の存在が垣間みえます。 文学解説を通して、漱石と子規の血が通った「茶碗の湯」を味読いただけたら嬉しく思います。
さらに、「茶碗の湯」と同じ大正11年に、雑誌『科学知識』に書かれた以下の随筆も、「茶碗の湯」の続編のような内容です。参考に読んでみてください。
「塵埃と光」(大正11年5月) (光の屈折から広がる話)
「海陸風と夕凪」(大正11年8月) (海陸風と季節風の話の続き)
また、大正11年5月に雑誌『学芸』に書かれた「気象雑俎2」では、雲や渦に関連して、後の随筆「自然界の縞模様」を彷彿させる話が展開されています。 その意味で、「茶碗の湯」は寺田物理学の先駆けといえる随筆であり、更にその描写が正岡子規の写生文の影響を感じさせる点も見逃せない所です。
科学解説の高木隆司先生は、大学在学中、平田森三先生の授業を受けていたそうです。 寅彦先生から平田先生へ、平田先生から高木先生へ、系譜はしっかりと受け継がれ、そして本書を通して、高木先生から読者の皆さんへ、寅彦先生からの衣鉢が継がれていくことを願っております。
最後に、本書の印刷は、『冬彦集』や『藪柑子集』と同じ精興社さんにお願いしました。
では、どうぞよろしくお願い致します!