本日は第14号の発売日ですので、以下に各記事の簡単な紹介をしておきます。


政池 明「激動のパリ一九六八年」

政池明先生の巻頭言は、パリのサクレー原子核研究所で、1968年に体験された「五月革命」の出来事を綴って頂きました。同時期にチェコスロバキアで起きた「プラハの春」にも遭遇し、同国出身のフランツ・レハールとの交流も感慨、胸打つものがあります。科学者が社会革命に出会うとき、どのような行動をとるべきか、一つのロールモデルになる話です。

山崎和夫「在りし日の断想(後編)」

山崎和夫先生の前号に続く「在りし日の断想」の後編は、ハイゼンベルク先生とパウリの思い出が中心です。マックス・プランク研究所でのクリスマスパーティやロチェスター学会でのパウリとハイゼンベルク先生の論戦をはじめ、バレンナの国際サマースクールでの晩年のパウリの姿など、印象深い回想が広げられます。最後の『部分と全体』をめぐる結びは真髄をつかんだ達見だと思います。

齋藤 曉「幼児から学んだこと」

齋藤曉先生には、長年考えてこられた「これ」と「意識」についての論考をエッセイ風にまとめて頂きました。ハイデッガーやサルトル、メルロ・ポンティなども連想させる話ですが、物理学者の独自の見解として書かれた興味深いエッセイです。心にうつりゆく由無し事の種は尽きることがありません。

石川 昂「科学雑誌『自然』の思い出」

元中央公論社の編集者だった石川昂氏には、現役時代に携わってこられた雑誌『自然』や自然選書をめぐる追想を綴って頂きました。初代編集長、小倉真美氏との思い出、恩師 朝永振一郎先生の名著『スピンはめぐる』の誕生秘話、そしてロゲルギスト同人への追懐。ロゲルギスト結成60年の節目である今年に振り返る、貴重なエッセイです。

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谷村省吾「手書きの文字」

谷村省吾先生のエッセイは、学部生の授業を担当する現場で感じられた、カルチャーショックともとれる話。しかし、この時代だからこそ大切な提言でもあります。「手の悪き人の、憚らず文書き散らすは、良し。見苦しとて、人に書かするは、煩し。」と兼好も徒然草に書いていますが、時代は変われど「自ら書く」行為は無くしてほしくないものです。

小長谷大介「三村剛昂:「波動幾何学」に至るまでの足跡(後編)」

小長谷大介先生の三村剛昂連載の後編は、三村の広島文理科大学時代から始まります。「波動幾何学」への展開が始まるまでの苦悩と葛藤が、仁科芳雄への手紙に窺えます。三村が自身の研究の下地を築いていく重要な足跡をたどります。

井元信之「音楽談話室(14)ハイゼンベルクのピアノ演奏」

井元信之先生の連載は、前回のアインシュタインに続いて今回はハイゼンベルクがピアノ演奏したレコードの鑑賞記です。同号の山崎先生から拝借した貴重なレコードに、胸を膨らませながら、京都で針を下ろしました。ハイゼンベルクがどんな曲を、どんな演奏技術で弾いたのか、詳しくは本稿をお読み下さい。井元先生が突きとめた謎に感動です。

伊藤憲二「仁科芳雄と日独青年物理学者たち(1)朝永振一郎と親方の温情」

伊藤憲二先生の新連載は、仁科芳雄に関わる人物交流をとり上げます。初回は、昨年の窮理サロンに参加いただいた方にはお待ちかねの話です。同号の石川氏のエッセイとも関係する朝永先生の「滞独日記」のあの話が軸になります。その背景にもなる、親方からの手紙、若手研究者には感涙むせぶ話です。

「随筆遺産発掘(14)水のしづくの行衛:田丸卓郎」解説:細川光洋

随筆遺産発掘は、今回は寺田寅彦の物理の師であり、水島寒月の源である田丸卓郎を取り上げます。あの「茶碗の湯」を彷彿する作品です。寺田寅彦に先立って書かれた青少年向け科学読物は、あのファラデーを想起します。クリスマスの季節、『ロウソクの科学』と「茶碗の湯」と合わせて、ぜひ読んで頂きたい作品です。

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尾関 章「本読み えんたんぐる(10)科学者に二派ありまして・・・フンボルト・ガウス考」

尾関章氏の「本読み えんたんぐる」は、数学者ガウスと博物学者フンボルトの比較論。二人の科学者に広がる隔たりを見ていく中で、ある一つの共通した態度に光が当たります。尾関氏が思わずフンボルトに、赤裸々な心情を吐露します。

佐藤文隆「窮理逍遙(7)ルフィーニの故郷」

佐藤文隆先生の「窮理逍遙」は、今回は佐藤先生と『ブラックホール』の共著で知られるレモ・ルフィーニが登場。イタリアのルフィーニ家の故郷を訪ねる滞在記です。奇しくも、中央公論社から自然選書として刊行された、この『ブラックホール』は同号の石川氏が編集担当された著作でもあります。

川島禎子「窮理の種(13)出立と焼芋」

川島禎子先生の「窮理の種」第13回は、寅彦先生の「出立と焼芋」の句について。足袋をはいて出立する旅姿にも、当時も人気の食べ物だった焼芋をめぐる話にも、あの正岡子規が登場します。