本日は『窮理』第15号の発売日です。
新型コロナウイルスの影響が深刻さを増しており、大変厳しい状況にありますが、各書店様のネット通販を利用するなど、読者の皆様が安全な方法でお読み頂けますれば幸いです。
一日も早く、安心できる生活が戻ってくることを願っております。
以下、各記事の概要を案内いたします。
松田卓也「マスターアルゴリズムと汎用人工知能」
松田先生の巻頭言は、21世紀の産業革命と目される超知能に関する話です。シンギュラリティ問題とも絡む、未来のAIと人間の関わり方を考えさせられます。前線で開発を進めるディープマインド社やオープンAIなどについては、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
島内裕子「寺田寅彦と日本の古典随筆」
島内先生には、『枕草子』『方丈記』『徒然草』の三大古典随筆の本質を、寺田寅彦の言葉を通して引き出すという試みをして頂きました。そこから批評文学の源流が見えてきます。『方丈記』も『徒然草』も、外出自粛で籠もって読書するのにはぴったりの古典です。文中に出てくる芥川龍之介や内田百閒の作品もお薦めです。
池内 了「江戸の宇宙論―二人の窮理学(前編)長崎通詞の志筑忠雄」
池内先生の古典探索シリーズは、第4号で紹介して頂いた司馬江漢に続いて今回は志筑忠雄。日本で最初にニュートン力学を広めた『暦象新書』の著者です。語学の才能を活かし、「重力」や「真空」などの新用語を数多く案出しました。本号では、志筑の多重宇宙論・構造形成論に迫ります。次号の後編では山片蟠桃を予定。
近藤 滋「チューリングと寺田寅彦」
近藤先生には、チューリングと寺田寅彦、二人の学者がそれぞれ模様の原理に至る経緯を比較して頂きました。チューリングが反応拡散波モデルを発表する20年以上前に、寅彦先生は平田森三(第4号参照)とひび割れモデルを提唱。両者の違いに切り込みつつ、寅彦式思考法を勧めるその理由は本文をお読みください。
杉山滋郎「堀内壽郎の欧州留学生活―量子力学・重水素・ナチス台頭(一)」
杉山先生には、知られざる化学者 堀内壽郎の人物伝を連載して頂きます。第1回の本号は、堀内の留学先のベルリンで出会ったアルノルト・オイケンやマイケル・ポランニー、エドワード・テラーが登場。『暗黙知の次元』で知られるポランニーの伯楽ぶりや、量子力学浸透期の時代背景がほの見えます。
井元信之「音楽談話室(十五)量子コンピュータ」
井元先生の音楽談話室は、ここ最近第2次ブームを迎えている量子コンピュータについて、第1次ブームと何が変わったか、googleやIBMのNISQ、D-Wave社の量子アニーリングなど、キーワードとなる背景を分かりやすく解説いただきました。量子回路とプロコフィエフのピアノ協奏曲第5番第3楽章の楽譜との類似については掲載図で納得します。
伊藤憲二「仁科芳雄と日独青年物理学者たち(二)W・クロルと台湾」
伊藤先生の連載第2回は、朝永振一郎先生と交換留学する予定だったヴォルフガング・クロルが主役。北大への招待や下宿先など、仁科先生たちの陰働きに日本人の温情を感じます。後半は、台湾へ移り、生涯を終えたクロルの物理学者としての人生に光を当てます。
随筆遺産発掘(十五)ー長岡半太郎「良審判官の必要」(解説:細川光洋)
第15回は長岡半太郎の「良審判官の必要」。初代大阪帝大総長になった当初、「研究は第一に人による」と訴えた長岡の人事観がわかる作品です。落第生だった幼少期、東洋人の科学研究の資質に悩んだ休学時代。細川先生の解説を通して、湯川秀樹を見出し、漱石や露伴と同年に生まれた明治人 長岡半太郎の苦悩と挑戦に迫ります。
尾関 章「本読み えんたんぐる(十一)菊池正士新書本を古書店で買い、今日的に読む」
尾関先生の連載第11回では原子力を巡る2冊を紹介。一つは古書店で買った菊池正士の新書本。もう一つは、2月に亡くなったばかりのフリーマン・ダイソンの本。放射能理解への時代の制約、原子力政策の悪弊、核の安定した貴重な地球環境など、時代を超えた古本の味わい方も説かれます。
佐藤文隆「窮理逍遙(八)トリニティのマスター・ディナー」
佐藤先生の連載第8回は、クエーサーのブラックホール説で知られるマーチン・リースとの思い出話。数多くのノーベル賞受賞者を輩出しているケンブリッジ名門のトリニティ・カレッジで、マスターになったリースから招待されたマスター・ディナー。ニュートンの肖像がかかる部屋での貴重な体験記です。
川島禎子「窮理の種(十四)新茶の悔い」
川島先生の連載第14回は、寅彦先生の「曙町より(九)」に付された句を紹介(後に『柿の種』所収)。白木屋の食堂で老婆との一幕から生まれた句。初夏の明るい光の中、亡き祖母や母の追想から、寅彦先生の透明な感傷が、新茶の香りと共に漂います。孝行したい時に親おらず、今も響く新茶の悔いです。