本日は『窮理』第18号の発売日です。
今号は寅彦ファン必読の号となりました。
今年も緊急事態宣言中での発売となりましたが、ご無理のない形でよろしくお願い致します。
以下、各記事の概要を案内いたします。
松下 貢「「寺田物理学」の現代的意味 寺田寅彦と複雑系科学」
松下先生による巻頭エッセイでは、複雑系科学を軸に“寺田物理学”の特徴を現代物理の観点から捉え直して頂きました。不安定化現象や対称性の自発的破れ等を、寅彦作品を例にわかりやすく解説してあります。物理の学生さんは是非ご一読を!
山崎太郎「北欧の日々・ワーグナーとの出会い」
ワーグナー楽劇研究の山崎先生には、お父様の敏光先生とのコペンハーゲンでのワーグナーをめぐる思い出話を綴って頂きました。重厚壮大な代表作『ニーベルングの指環』が幼時の山崎先生をいかに刺激し、未来のワグネリアンを潜在的に啓発していったか…。内村鑑三風に言うならば、「余は如何にしてワグネリアンとなりし乎」というワーグナー体験記です。「Hojotoho !」
政池 明「悲運の原子核物理学者 花谷暉一の足跡」
政池先生には、昨年夏にNHKで放送されたドラマ「太陽の子」に合わせて組まれた特番にも登場した、当時物理学生だった花谷暉一を紹介して頂きました。花谷が開発した中性子検出器をはじめ、広島に投下された原爆と爆心地特定の証明、そして枕崎台風による遭難事件まで、壮絶なその足跡をたどります。
小松美沙子「露伴、寅彦、宇吉郎と父小林勇(後編)」
小松美沙子さんのエッセイ後編は中谷宇吉郎先生が登場。前編から続く寅彦先生と小林勇氏の交情は、露伴先生を交えて更に濃く深まります。その師と軌を一にするように人生を送られた宇吉郎先生との家族ぐるみの交流。初の随筆集『冬の華』や『雪』の出版背景、画友としての交遊など、愛惜される出版人の“遠いあし音”が小松さんの筆を介して伝わってきます。(本文中の参考として、小林勇氏宛寺田寅彦書簡を挙げておきます。)
杉山滋郎「堀内壽郎と欧州留学生活―量子力学・重水素・ナチス台頭(四)」
杉山先生の堀内壽郎連載は今号が最終回。舞台はベルリンから英国マンチェスターに移ります。後にこの分野で指導的役割を果たした水素電極の触媒反応について、堀内はポランニーたちと成果を上げます。論文発表までの実験プロセスや堀内の進路、手当へのポランニーの配慮など、“一科学者の成長”の一幕が欧州で閉じられます。
井元信之「音楽談話室(十八)―ケーベル先生(二)」
井元先生の音楽談話室は前回に引き続いて「ケーベル先生」。今回は紆余曲折を経て出会った「九つの歌曲」の紹介です。九つのうち、特に井元先生が着目したのは第七曲、アイヒェンドルフの詩「岸辺から」の作曲について。ケーベル先生の作曲構成と比較するのは、あの大作曲家ですが、その詳細は本文をぜひ! 今回は玄人向けの解説も交じっており、読み応えがあります。
伊藤憲二「仁科芳雄と日独青年物理学者たち(四)―渡邊慧と寺田物理学(前編)」
伊藤先生の仁科連載第4回は、朝永先生と親交のあった寅彦門下の渡辺慧先生が登場。前編の今回は、渡辺先生の出自や足跡を紹介して頂きました。寅彦先生はじめ藤原咲平先生や伏見康治先生も交わり、時間論のパイオニア的存在でもある渡辺先生の学問形成が垣間見られ、とても醍醐味のある内容になっています。
随筆遺産発掘(十八)―「奇術二つ」中村清二(解説:細川光洋)
随筆遺産発掘は、寅彦ファンには是非知って頂きたい学者、中村清二を取り上げました。寺田物理学のロールモデルとも言える中村物理学。今回はロゲルギストにも通じる科学随筆「奇術二つ」を紹介します。同じ“身辺の物理学”でも、寅彦先生と中村先生の微妙な違いも垣間見られます。その辺りは細川先生の解説を是非お読みください。
尾関 章「本読み えんたんぐる(十四)―実存主義と量子力学、その微妙なもつれあい」
本読みえんたんぐる第14回のテーマは、実存主義と量子力学。実存主義をめぐる新旧2冊の本を絡ませて、同時代に現れた量子力学との相性について話が深まっていきます。サルトルとガブリエル。二人のスタンスの違いも注目です。
佐藤文隆「窮理逍遙(十一)―さようならホンゼラールス」
「窮理逍遙」第11回は、昨年亡くなった物理学者ホンゼラールスのエピソードが紹介されます。世界的教科書『Exact Solutions of Einstein’s Field Equations (2nd-edition)』(Cambridge UP)の著者の一人でもあるホンゼラールス。京大滞在時代に起きた博士号授与事件をめぐるほろ苦い思い出話です。
川島禎子「窮理の種(十七)―夏椎子(一)」
「窮理の種」第17回は、寅彦ファン必読のちょっとした発見話です。タイトルでピンと来る方もいるでしょう。主人公はあの『団栗』のモデルとなった寅彦先生最初の妻 夏子さん。手がかりとなった俳句も幾つか交えて推理が広がります。本テーマは次号にもまたがり、興味はつきません。山本善行さん撰『どんぐり』(灯光舎)と合わせて是非!