紙版はすでに一部の書店では発売されておりますが、kindle版サイトも発売開始されました。(→)
今号は、表紙に絵も添えた湯浅年子先生の誕生日を、発売日とさせていただきました。
以下に、各記事の簡単な紹介を案内させていただきます。
助手時代に「何のために科学史の研究をしているのか自問した」という西尾成子先生の巻頭言は、広重徹先生と研究した頃を振り返る教訓に満ちた話です。資料に裏づけされた科学史研究が、物理の研究や教育に一層役立ちうるという実感のこもったメッセージです。
安孫子誠也先生にはギリシア時代に遡る音律の話を解説して頂きました。物理学者が音楽と関連が深い背景に、中世ヨーロッパの数学的四科に音楽が含まれていたことに触れながら、その本質へ迫ります。ピュタゴラス音律→純正律→平均律へと変化した歴史の流れは圧巻です。
岡崎誠先生には、落語関連エッセイ第3弾を。今回は、落語の三題噺にかけて、物理三題噺ABCと題して、ご専門の固体物理の発展を振り返って頂きました。ABCとは、固体物理に貢献した人物の名の頭文字をとったもので、イロハのような意味にもとれます。
杉尾一先生の哲学エッセイは、雨よけに入ったカフェで認識論と実在論を考える、という短編仕立ての味のある構成になっています。量子論と古典論の考え方や概念の相違を、柔らかい語り口で、わかりやすく解説。やまなみ書房のJSP1巻に姉妹編もあります。
井元信之先生の連載第11回は、幕末にシーボルトが日本に持ち込んだピアノを巡る話です。「日本最古のピアノ」と定義されるシーボルトのピアノがどんな構造をしていたのか、ピアノの歴史にも踏み込んだ貴重な取材話。
伊藤憲二先生の人物伝シリーズ第4弾は、夭折した天才物理学者、菊池泰二を取り上げます。菊池大麓の息子で、末弟に菊池正士をもち、箕作阮甫、長岡半太郎、坪井忠二、鳩山道夫らとも縁続きの学者一族に生まれた菊池泰二の真空管研究に焦点を当てていきます。
「随筆遺産発掘」第11回は、海外で活躍した日本初の女性物理学者、湯浅年子の「素人藝について」を。物理学者でありながら、芸術や文学にひときわ秀でた一面をもっていたことがわかる随筆です。今回は、表紙に添えた本人の絵と合わせて味わってみて下さい。細川光洋先生の短歌も交えた解説も!
尾関章氏の連載第7回は「動物福祉」をめぐる話とその関連本3冊を絡めて頂きました。そのうちの一冊、宮沢賢治の『フランドン農学校の豚』から読み取れる深い先見性は、人間中心のものの見方を厳しく考えさせられます。
佐藤文隆先生の連載第3回は、往年のソ連物理学絶頂の時代を振り返ります。マルコフ来日時の湯川先生とのエピソードをはじめ、ゼルドビッチやサハロフの追憶は、ソ連が崩壊して27年も経つ今となってはとても貴重な話です。
川島禎子氏の連載第10回は、寺田寅彦の稲妻に関する句をご紹介いただきました。中谷宇吉郎とスパーク研究もし、化け物好きの寅彦が、稲光に興味をもった背景などを探っていきます。
以上、窮理 第11号、どうぞよろしくお願い致します!