「藤の実」射出観察記録
2021年の寅彦忌に刊行した『寺田寅彦「藤の実」を読む』に関する報告です。
本書の校了を迎えようとしていた2021年初冬に、著者の一人である山田功先生より、ご参考用にと、たくさんの実物の藤の実を頂戴しました。本書をお読みの方はご存知かと思いますが、山田先生の解説には、教え子の川口修様と一緒に実験された藤の実の観察記録の結果がグラフによって掲載されています。そこで、窮理舎でも藤の実の観察をしてみようと、さっそく実験を開始しました。
設置をするならばなるべく屋外が理想ですが、屋根のあるような場所というとベランダのような場所しかありませんので、雨風を防げるよう大きめの段ボール箱に藤の実をぶら下げることにしました。
設置は2021年11月10日。以来、藤の実が爆ぜた日と爆ぜた本数、日々の平均湿度と最低湿度の記録をしたものが下のグラフになります。湿度は、窮理舎のある足利市に近い群馬県前橋市の数値を元にしています(→気象庁データ)。(足利市は栃木県ですが群馬県と隣接しており、地元では有名な赤城降ろしという空っ風が冬場は吹き通すため、気象データは前橋市や館林市が近いです。)
まず、2021年11月のグラフと写真です。
この月に爆ぜたのは1本だけでしたが、面白いことに、爆ぜた24日当日の夕方、藤の実を下さった山田先生ご本人と校了の最終確認を電話でしていたときに、大きな音で弾けました。校了間際ということで、こちらも少し慌てていたことは否めませんが、寅彦先生の「藤の実」と何となく重なったような感覚を味わいました。記念すべき人生初の藤の実爆発体験の日です。
次に、2021年12月のグラフと写真です。
この月は藤の実の爆ぜ始めるシーズンということもあってか、年末に4日連続で弾けました。本書が無事納本され、取次・書店搬入も完了していた時期でしたので、刊行祝砲のような印象も受けました(笑)。
そして年をまたいで、2022年1月のグラフと写真になります。この月は、追加で山田先生が送って下さった分(10本ほど)を再設置して臨みました(追加設置日は2022年1月14日)。
なんと追加設置した翌日に7本も爆ぜ、それからも1~2日おきに爆ぜていったのですが、この月は乾燥度と爆ぜるタイミングに若干のズレを感じました。全体的には、湿度の低かった時期に集中していたように思います。
以上、これらの観察は山田先生らがなされたのと同様の方式で記録しましたが、共通して言えることは、湿度が低い状態が続き、乾燥度が高くなっているときに爆ぜているということ、そして実際に爆ぜる場面に遭遇して感じたことは、自身の心理状態が通常よりも慌てていたり、何かに追われて急いている状態に重なっていたことが多かったように思います。
これはあくまで私見ですが、藤の実の爆ぜるシーズン自体が年末年始に集中していることと、師走や年始の忙しさが相関しているのではないかと思われます。年末年始の人間の心理状態は、一年の中でも気忙しい時期です。それにしても、偶然とはいえ、藤の実の爆発が自身の行動にここまで重なると不思議な感覚を味わいます。寅彦先生が昭和7年12月当時体験し、そのことを随筆として認めておこうと思った理由が肯けます。
山田先生から頂戴した藤の実は、関係者や書店にも参考用に配布させて頂き、そのうち何人かの方々からは、藤の実が爆ぜた報告も受けております(その中には、本書の発行日である寅彦忌に爆ぜ始めたという方もいらっしゃいました! 潮時とは不思議なものだと実感した次第です。)。改めて、山田先生およびご協力くださった皆様に感謝申し上げます。
次は、銀杏の一斉落葉にもチャレンジできればと目論んでおります・・・笑。
種 と び て 何 や ら ゆ か し 藤 の 莢
【追記】
その後、桜が開花し始めた3月末に、爆ぜた実の種をいくつかプランターや土に植えてみたところ、約1カ月後の4月下旬に芽が出てまいりました。20~30粒ほど植えましたが、かなりの繁殖力で成長しています。実が弾ける強さからも想像できますが、改めて藤のもつ生命力を感じます。花を咲かせるまでには時間がかかると思いますが、今後も観察してまいります。
飛 び 出 し 藤 の 実 も ゆ る 暮 の 春