『寺田寅彦『物理学序説』を読む』
細谷暁夫 著
2020年12月31日発行
四六判上製/口絵あり/312頁
本体3,200円(定価3,520円)
ISBN 978-4-908941-24-5/C3042
(内容紹介)
夏目漱石の高弟として多くの名随筆を残した寺田寅彦は、物理学者としてもスケールの大きい体系だった思想をもっていました。そのエッセンスをまとめたものが『物理学序説』という未完の集大成です。本書は、“物理学者 寺田寅彦”の方法序説ともいえる『物理学序説』を、現代物理学の視点から新たに読み解いていきます。また対談では、寅彦の物理学への思想の背景にあった漱石との関係などを、文学や歴史の観点から探っていきます。『物理学序説』原文および注釈に加え、門下の中谷宇吉郎による後書などの附録も充実させて収載。物理学を学ぶ人、研究する人、それぞれが自身の物理観を育て、反省する上での格好のビタミン剤となる書です!
(著者からのメッセージ)
「現代の理論物理学は、高度に数学化されている。学問の発展の段階では、その数学化が威力を発揮してきたことは否定できないし、実際に一般相対性理論では大成功をおさめた。肌感覚では一九八〇年代からその傾向が極端になり、かつやり尽くされたように思うが、そう思うのは私だけではないようだ。ここで一旦立ち止まり、集団思考から社会的距離をとり、自然を直視して、数学の言葉でなく自然言語で物理を語り、研究の新しい芽を探してみてはどうだろうか?
一方、実験も大規模になり長期間を要する「事業」へと変貌して久しい。そこには、個人の発想を生かすチャンスは少なくなる。それについて悩む若い研究者も多い。その中で自分の頭で考えて試してみたい人たちには寅彦が闇夜の道を照らす行灯になると思う。」(本書「はしがき」より)
(目次構成)
(口絵は石原純宛寺田寅彦書簡写真:全集未収録)
●はじめに
●寺田寅彦『物理学序説』を読む
第一篇 緒論
第一章 学問の起源、言語と道具
第二章 哲学と科学
第三章 自己と自己以外
第四章 物質科学と生物科学
第五章 物理学―物質科学の根柢としての
第六章 数学との関係
第二篇 物理学の対象
第一章 物理学
第二章 物理学の対象
第三章 実在
第四章 感覚
第五章 数と空間時間
第六章 物質とその性質
第七章 因果律
第八章 偶然
第三篇 物理学の目的とその方法
第一章 物理
まとめ
付記:執筆計画について
『物理学序説』執筆計画メモ(原文)
●物理学と文学の対話―『物理学序説』をめぐって―(千葉俊二氏との対談)
(欧米の主流から認識論的物理学への模索/寅彦の物理学者としての方向転換/当時の設備と寅彦の心理/寅彦の哲学的思考/漱石と寅彦の問題意識の共有/科学はHowを研究するもの/因果の分類という問題/寅彦から見たプランクの世界/量子力学と日常身辺の物理学/偶然について/歴史は科学か/「複雑なもの」と「複雑に見えるもの」との違い/漱石と科学/偶然性と量子力学/プランクの主張する「非人間的な実在」/漱石の科学への関心/出会いと歴史/「歴史」と「物語」/物語の展開/二十世紀の藝術/行為の動機/偶然と自由意志/物語の座標軸と物語のモラル/小説と思考実験/自由意志と運命はネガとポジの関係/思考実験について/なぜ日本人は思考実験が得意でないか/文学における「偶然」について/歴史と物語と偶然/歴史とは何か/寅彦的アナロジー観/メタファーとしての文学と科学/一回性としての「歴史」の複雑さ/なぜ『序説』執筆を途中で止めたか/情報科学と量子力学の出会い/量子情報科学と認識論/一回性の人生と普遍性/「真実」の追求と記録の解釈/記録の選別と「物語のモラル」/科学と文学の接点と分岐点/思索の「型」を学ぶ/「複雑であること」と「単純であること」/文学と科学の区別を超えた聖域/選択の余地とモラル/単純化できない現実の意味)
※本書未掲載対談(文学談義)はこちらを(→)
●物理学序説(寺田寅彦著)
●物理学序説 附録・後書
自然現象の予報(寺田寅彦著)
事実の選択(ポアンカレー著/寺田寅彦訳)
偶然(ポアンカレー著/寺田寅彦訳)
後書(中谷宇吉郎著)
●物理学序説 注釈(細川光洋監修)
●あとがき
●寺田寅彦 略年譜(川島禎子監修)
●参考文献
◎補足案内(→)